老犬介護:自宅で飼い主が皮下点滴を行うメリットとデメリット

老犬介護:自宅で飼い主が皮下点滴を行うメリットとデメリット

往診で診てもらった獣医師に、脱水気味だと指摘されたコタロウ。首元を掴んでも皮がすぐに戻らない、人間でいうハンカチーフサイン。脳腫瘍のせいなのか、体力が落ちたせいなのか、最近、自力で水を飲むことが難しくなってきた。

これまで何度か、動物病院で皮下点滴を行いましたが、やはりその都度の通院はコタロウに負担になります。そこで、コタロウのためにも自宅で皮下点滴を行うことにしました。

後日、獣医師から指導を受け、数回分の輸液、ライン、針も獣医師から購入。週2回、1回250mlを入れることにしました。

目次

皮下点滴を行う前の確認事項

老犬介護で皮下点滴を行う前に、まず確認しておくべきポイントをご紹介します。犬や猫の皮下点滴は飼い主でも行えるほど思っているほどハードルは高くなく、獣医師も気軽に勧めてきますが、皮下点滴が愛犬の体の負担になっている場合もあるので注意して下さい。

口からの水分補給の方が効率的

皮下点滴を検討する前に理解しておくべきことは、水分補給は口からの方が効率的に吸収されるということ。もしまだ自力で飲めるようであれば、口から飲ませる方が良いでしょう。

水を飲まないというなら、シニア犬用ミルク、ペットスウェット、ちゅーるを溶かした水、タラや鶏肉を煮出したものなど、嗜好性の高い飲み物、香りが強い飲み物を試してみて下さい。水分や栄養は経口摂取が基本。とにかく飲ませる、食べさせることが重要です。

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それでも、飲み物も食べ物も受け付けない、飲み込もうとしない、無理矢理与えると誤嚥性肺炎のリスクの方が勝る、なんとか飲み込んでくれるけど量が足りなくて脱水気味になっているという場合、次のステップとして皮下点滴を行うと良いでしょう。

皮下点滴に栄養は含まれていない

私も勘違いしていたのですが、皮下点滴では栄養は補給できません。皮下点滴で使用する輸液は基本的にソルラクトと呼ばれる生理食塩水です。

場合によっては少量のビタミンが含まれる輸液を使用する場合もありますが、1日に必要な栄養素を皮下点滴で補給するのは無理です。皮下点滴はあくまで脱水防止のための処置になります。

皮下点滴が体の負担になる場合もある

個人的に、皮下点滴を行う上で最も重要なことがコレだと思います。本来であれば1日かけて飲む量の水分を、数分で体内に無理矢理入れるわけですから、体への負担は言うまでもありません。

処置という一方で、水分を吸収するために体力を使っているのは明らか。その証拠に、皮下点滴を行った後は尿量が急激に増えます。大量吸収、大量排出です。

皮下点滴を行えば一時的に脱水症状は改善されますが、これを継続するのは賛否両論。私も初めのうちは皮下点滴を習慣化していましたが、負担になっている気がして途中で止めました。

皮下点滴で改善された症状

脱水は様々な症状の原因につながります。定期的に皮下点滴を行うことで、それらの症状を事前に防ぐことができます。以下は、実際に皮下点滴を行うようになって改善した症状です。

てんかん発作や痙攣が起きにくくなった

コタロウの場合、自宅で定期的に皮下点滴を行うようになってから、てんかん発作や痙攣、脳梗塞のような症状はほとんど起きなくなりました。

獣医師からも「脱水気味になると発作が起きやすくなる」と説明を受け、もしかすると今まで脱水気味だったのかもしれないと反省。水は飲んでるほうだと思っていたが、甘かった。

眼球が奥に窪む症状が改善した

前々から目玉(眼球)が奥まることが度々起きていました。気圧や脳圧によるものだと思っていたけど、これも脱水のサインだと獣医師に教えてもらいました。

目関連で言うと、目が乾く、涙が少ないといった場合も脱水を疑ったほうがいいとのことです。

食欲が安定した

以前から、発作が起きて食べなくなった時は動物病院に連れて行き、皮下点滴を行っていました。理由ははっきりしませんが、皮下点滴をしたら食欲が戻るという謎のジンクスがコタロウにはありました。

発作が起きなくなったことが大きな要因だと思うけど、自宅で定期的に皮下点滴を行うようになってから食欲は安定している気がします。

自宅での皮下点滴に必要な物

続いて、自宅で皮下点滴を行う際に必要な物を一通りご紹介します。医療品は動物病院支給になりますが、一部、飼い主側で用意する物をあります。

輸液(ソルラクト)

老犬介護:皮下点滴の輸液

点滴する輸液は「ソルラクト輸液(L-乳酸ナトリウムリンゲル液)500ml」を支給されました。コタロウには1回250mlを週2回に分けて皮下点滴しています。なお、空になった輸液パックは医療廃棄物なので動物病院の方で破棄してもらいましょう。

輸液ライン

老犬介護:皮下点滴の輸液ライン

輸液を通す管。プラスチック製の針、空気室、クレンメがセットになっています。輸液ラインも医療廃棄物なので勝手に捨てないようにしましょう。

注射針

老犬介護:皮下点滴の注射針

注射針には様々な太さがあります。細ければ痛みが少なく液漏れが少ないが、点滴に時間がかかる。太ければ輸液を早く入れられるけど、針を抜いた後に液漏れするリスクがあります。我が家では「動物用ディスポ注射針V」の0.8×16mmが支給されました。

注射針は1回使ったら終わりの使い捨て。注射針も医療廃棄物になるので動物病院の方で破棄となります。使用済みの注射針はジップロックなどに入れて保管しています。

使用済みの注射針は医療廃棄物

加圧バッグ(インフュサージ)

老犬介護:皮下点滴の加圧バッグ(インフュサージ)

加圧バッグ(インフサージ)は、輸液パックに空気で圧力をかけることができる医療品。楽に皮下点滴を行うことができるので、自宅で行う際は絶対にあった方がいいです。こちらは動物病院から支給されなかったのでAmazonで購入しました。

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輸液を吊り下げられられるようにする物

病院でよく見る点滴を吊り下げるような物。安定していれば何でもOKです。ポールハンガーでも可。我が家では、柱2ヶ所にビスを打ち、ナイロン紐を張り、S字フックを使って輸液パックを吊り下げています。

皮下点滴の手順

STEP
輸液パックを温める

輸液パックは人肌に温めておくと良いでしょう。体温より冷たい輸液を皮下に入れると体が冷えて、下痢を引き起こす可能性があります。

温める際は湯煎がおすすめ。獣医師には「電子レンジでも問題ない」と言われましたが、ちょっと不安だし、温めすぎると冷やすのに時間が掛かるので、毎回40℃ほどのお湯で湯煎しています。

また、冬場は輸液を温めても水風船を体に当ててるような状態なのでどうしても次第に冷えていきます。皮下点滴を行う際は室温を高く保つなどして対策をとりましょう。

輸液パックを湯煎して温める
STEP
輸液パックに輸液ラインを挿す

輸液ラインのクレンメが締まっているのを確認したら、プラスチックの針を輸液パックのゴム栓の穴に挿します。ソルラクト輸液500mlの穴はINが2ヶ所、OUTが1ヶ所ありますが、どこでもOKとのこと。ゴムが硬いので挿し込む際は結構力が必要です。

輸液パックのゴム栓の穴

輸液パックにラインを指す際の注意点としては、絶対にプラスチック製の針に触らないこと。また、ゴム栓にも触らないこと。菌が付着します。

STEP
輸液パックを加圧バッグに入れる

輸液パックを加圧バッグに入れて、ミシミシという音が鳴るまで圧力をかけます。

輸液パックを加圧バッグに入れる
STEP
輸液ライン内の空気を抜く

次にタオルやボウルなどを用意して、輸液が出てくるまでクレンメを少しだけ解放。ライン内を輸液で満たして空気を抜きます。ライン内の空気が綺麗に抜けたらクレンメを締める。

輸液ラインのクレンメ
STEP
空気室に輸液を入れる

クレンメが締まった状態で輸液パックを手で力強く押すと、ライン上部の空気室に輸液がポトポトと滴ります。だいたい空気室の半分くらいまで輸液を入れます。

輸液ラインの空気室
STEP
注射針を取り付ける

ラインの先端に注射針を取り付けます。キャップはまだ外さない。

皮下点滴用の注射針
STEP
注射針を刺す位置の確認

慣れるまでは注射針を刺す位置の確認を念入りに。一般的に皮下点滴は肩〜背中辺りに注射針を刺します。コタロウの場合、動物病院Aは肩甲骨辺り、動物病院Bは背中でした。自宅で行う場合は、皮膚がつまみやすい場所、肩甲骨辺りが良いと思います。

左手の人差し指と親指で皮膚をつまんで三角形を作り、指の隙間に針を刺す。貫通させて自分の指を刺さないように。筋肉や骨を刺さないように水平に。何度かつまんでみてイメトレを。

STEP
注射針を刺す

我が家ではアルコール消毒はしてませんが、消毒液があるならやった方がいいと思います。注射針のキャップを外して、イメトレ通りに刺します。ちなみに注射針は尖っている方を皮膚側にして刺すと良いらしいです。

注射針の尖っている方を皮膚側にして刺す

注射針を刺す際は勢いが大事。躊躇すればするほどドキドキして刺すのが怖くなります。ドキドキは犬も伝わります。皮下には細かい神経は通っているけど、刺す針は細いので痛みはほとんどないとのこと。刺さないと始まりません。頑張れ!

皮下点滴の注射針を刺す
STEP
クレンメを解放して液漏れを確認

注射針を刺したらクレンメを少し解放して輸液を流してみます。針を刺した辺りの毛が濡れずに、空気室に滴が垂れていたら成功。クレンメを全解放してさっさと流し入れます。250mlならだいたい10分ほどで入れ終わります。

皮下点滴は10分ほど終わる

この時、輸液が漏れていたら注射針が皮膚を貫通しているか、そもそも刺さっていない可能性があります。落ち着いて、まずはクレンメを締める。注射針をゆっくり抜く。内心、かなり焦ってると思いますが再チャレンジ。注射針は極力新しいものに変えた方が良いでしょう。

STEP
皮下点滴終了

輸液が規定の量入ったらクレンメを締めて、注射針を抜く。注射針にはすぐキャップをします。加圧バッグの圧力を抜いて終了。

輸液パックにまだ残りがある場合、注射針はそのままでOK。我が家では500mlを2回に分けて入れていますが、ラインは頻繁に交換しないので、基本的にこの状態のままで保管しています。素人が下手に抜き差しすると菌が付きますからね。次回、皮下点滴を行う際に針だけ交換、ラインは数回使って交換しています。

輸液ラインも針も付けたままで保管

輸液パックには赤ペンで目印を付けておく

輸液パックを加圧バッグに入れるとメモリが見えにくくなります。あらかじめ、輸液パックのメモリに赤ペンで目印を付けておくと見やすくなります。

あと、輸液パックは加圧バッグで圧縮されるとメモリが微妙にズレてしまうので注意が必要。圧縮された状態で250ml入れたつもりが、圧力を抜いたら350ml入っていました。

何度か試した結果、250mlを入れたい場合は加圧状態の350mlで止めたら丁度よかったです。加圧バッグの圧力の加減によってもメモリはズレるので、ご自身で丁度いい目安を見つけて下さい。

輸液パックは加圧バッグに入れるとメモリがズレる

注射針を抜いたら血が出た

注射針を抜いたら血が出てきたことがありました。皮下とはいえ細かい血管は通っているので、血が出る場合もあるようです。焦らずティッシュなどで止血すればすぐ止まります。

皮下点滴で参考になるサイト

千葉県船橋市宮本のくわじま動物病...
自宅で行う皮下点滴のやり方! - 千葉県船橋市宮本のくわじま動物病院です。犬、猫、フェレット、ハムスタ... まず、皮下点滴に必要なセットを用意します。           50ccのシリンジ2本に、乳酸リンゲル液を100cc吸います。                
たかつきユア動物病院|高槻市栄町...
【獣医師監修】自宅点滴ってアリなの?? | たかつきユア動物病院|高槻市栄町|犬・猫専門(ワクチン、健... 犬猫の自宅点滴の是非について獣医師が思うところをまとめました。現在実施している方もこれからしようと考えている方も一度そのリスクについても知っておいてください。本...

点滴といえば1滴ずつゆっくりと入れるイメージですが、動物病院で皮下点滴を行う際はシリンジを使って輸液を一気に入れる場合が一般的のようです。その方が早いからでしょう。

最終的に皮下点滴を止めました

週2回の皮下点滴を自宅で行っていましたが、それでも脱水気味が続いたので、その後、毎日に変更しました。でも、しばらくして皮下点滴を止めました。

自宅での皮下点滴を習慣化した場合、その都度、愛犬のうなじに針を刺すことになります。コツを掴んで上手くいけば問題ないのですが、失敗して針が貫通したり、血が出たり、何度も同じ場所を刺しているから刺す場所がなくなってきたりします。獣医師には「皮下は神経が少ないから本人はそんなに痛くない、安心して」と言いますが、慣れていない飼い主にとっては精神的にかなりきます。

皮下点滴を止めた理由は上記で紹介した「針が刺さらなくなってきた」のと「コタロウの負担になっていると感じた」のが一番の理由です。

他にも「毎日針を刺すのが痛々しい」「これはコタロウが望んでいることなのか?」「緩和ケアなのか延命治療なのか分からなくなってきた」「もう自然に任せる段階なのかも」など様々な理由もあります。

皮下点滴を止めてから18日後にコタロウは息を引き取りました。

皮下点滴を続けていたらもう少し生きれたのかも。いや、皮下点滴を止めたのに18日も生きれたのかも。

老犬介護に正解なんてありません。皮下点滴を止めたことが正しかったのかは誰にも分かりません。

もう、何が正解なのか分かりません。いや、はじめから正解なんてないんですよね。きっと。

老犬介護で皮下点滴を行うメリットとデメリット

最後に、老犬介護における、皮下点滴のメリットとデメリットをまとめてみました。

皮下点滴を行うメリット

  • 脱水症状の防止になる
  • 食欲が安定する
  • てんかん発作や痙攣の予防になる
  • 排尿による毒素の排出(腎不全の治療でも行う)

老犬介護で皮下点滴を行う一番のメリットは、脱水症状の防止。寝たきりの老犬介護は水分補給が困難です。シリンジで与えようにも、本人に飲み込む意思や気力がなければ無理です(この時点で皮下点滴を行うべきかは疑問ですが…)

また、脱水症状が緩和されると食欲が増すという報告もあります。事実、コタロウは何度も皮下点滴後に食欲が復活して、一命をとりとめています。

そして、これは個人的な感覚値でもありますが、てんかん発作が起きにくくなった気がします。脱水すると血液中のナトリウム濃度の低下により痙攣が起きやすくなるようなので、てんかん発作も同じような理由かと思います。

あとは、皮下点滴を行うことで尿量がかなり増えます。排尿は腎臓に溜まった毒素を排出するデトックス作用なので、こちらもメリットと言えるでしょう。

皮下点滴を行うデメリット

  • 体の負担になっている場合もある
  • 費用が掛かる
  • 万が一の事故のリスクもある
  • 精神的負担が大きい

老犬介護で皮下点滴を行うデメリットですが、そもそも皮下点滴を行うことで改善される状態かどうかを、見誤っているケースが多いことです。上記で述べたように、自力で水分補給が出来ない状態、水を飲む意思がない、意欲がない、気力がない状態は、言い換えると、あとは寿命を待つだけの状態とも捉えられます。

コタロウも終末期の自宅皮下点滴は、ほぼ上記のような状態で行っており、SNSで「無理矢理生かしているようだ」といった意見もありました。

当時は「うるせぇ!コタロウはまだ死なない!」といった気持ちで、自分たちの判断に自信を持っていました。過去に皮下点滴を行って、食欲が回復したこともありましたので。

しかし、結果的に皮下点滴を止めて、自然の流れに任せるようにしました。

「枯れるように逝く」という言葉があるように、老犬介護に限らず、生き物の最期は水も飲めず、まるで植物が枯れるように死んでいくのが自然。そして、枯れるような最期は意識もうろうとし、苦しみも少ないとかどうとか。

だから、コタロウは枯れるように逝くべき時に、無理矢理、水分を体に流し込まれて、苦しみを長引かせてしまったのかも…と考えてしまうこともあります。

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この記事を書いた人

柴犬コタロウの老犬介護に生活の全てを捧げたアラサーおじさん。千葉の先端にある古民家で暮らしてます。保護猫2匹も一緒に住んでます。Twitter、Instagram、YouTubeでも老犬介護の情報を発信しています。

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コメント一覧 (3件)

  • はじめまして。ブログを拝見し勇気をもらいました。
    来月20歳になるパピヨンが2年前、てんかん発作を起こし薬を飲ませ外出を控える日々が始まりました。
    1年半は薬のおかげで発作を抑えることができましたが、ここ半年、再度発作を起こすようになりました。
    薬を飲ませることに試行錯誤し何度も心が折れながらも改善し、最近は食欲低下もありまた薬と格闘しています。慢性膵炎のため食事内容に制限もあります。重度の腰痛持ちですが、今の所よちよちフラフラ歩いています。
    少し疲れてきたと思っていたところ、こちらのブログに辿り着き心が救われた気持ちになりました。サポートも素晴らしいと思いましたが、なによりコタロウさんへの想いがすごく伝わってきました。私の愛犬への今後の向き合い方に勇気が湧きました。
    どうしても感謝を伝えたくコメントしました。
    ありがとうございます。

    • コメントありがとうございます。老犬介護は孤独で不安になりますよね。愛犬のことを一番理解しているのは飼い主さんだけなので、出来る範囲で最適なお世話をお願いします。

  • はじめまして。
    点滴の記事を読ませて頂き、19歳のミニチュアダックスに今さっき点滴しました。今日は病院が休みなので、不安ながらも私がしました。
    こちらの記事のおかげで落ち着いて出来ました。
    本当にありがとうございました。
    てんかん持ちでずっと闘病して来ましたが、先日心不全の診断をされました。あまり長くないと言われました。
    お礼をお伝えしたくてコメントさせて頂きました。ありがとうございました。

    コタロウちゃんのご冥福をお祈り致します。お空で安らかに、、

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